新しい命が芽吹き、自然が新たな装いをする春です。
「陽」の気が盛んになる春の養生の注意点を見ていきましょう。
●立春
少しずつ寒さが緩み始め、春の気配が忍び入ってきます。春の始まりの日です。
●雨水
雪から雨に変わり、雪が溶け始める頃です。
●啓蟄
大地が温まり、冬眠していた虫が穴から出てくる頃です。
●春分
昼と夜の長さが等しくなります。春の季節の中間点です。
●清明
万物が清々しく明るく美しい頃です。
●穀雨
田畑の準備が整い、それに合わせて春の雨が降る頃です。
生活の心得「養陽防風」
春は植物が芽吹き、動物や虫が冬眠から覚め活動を始める時期です。生命力や新しい陽の「気」が満ちている時期です。その陽の「気」をうまく身体に取り込むことが春の養生の大切なポイントです。陽の「気」が盛んになるにつれて体内の新陳代謝が活発になり、エネルギー消費量も増えてきます。
冬の間に蓄えていたエネルギーを消費していく時期です。したがって、冬の間にきちんとエネルギーの充電をしておく必要があります。春は病気の活動も活発になるため、多くの病気の発生がこの時期に集中しています。
春の養生の注意点
①風邪を防ぐ
春はよく風が吹きます。これが人体に悪影響を与えると、「風邪」という春に最も多い病気の原因となり、さまざまな伝染病を引き起こします。「風邪」が体内に入り込んで、重大な病気を引き起こさないように予防することが春の最重要課題です。
②寒暖の変化に注意する
春は冬から夏への移行期間で、冬の寒気と裏の暖気が入り混じって、寒かったり暖かかったり、晴れたり曇ったりと、気候が不安定な時です。気候の変化に過敏な方は適応しきれないことも多くあります。生活のリズムを整えるよう注意が必要です。
③「肝」を落ち着かせる
五行説では、春は五臓でいうと「肝」に対応しています。陽気が盛んな季節なので「肝」の「気」も旺盛になりがちです。この「気」が盛んになりすぎると、高血圧、めまい、肝炎などになりやすくなります。また、「肝」は精神状態にも大きな影響を与えるので、「肝」を落ち着かせて精神の安定を図るようにしましょう。
④気候の変化に対応する準備を
寒い時は身体が縮こまって「気・血」の流れも滞りがちですが、春になって気温が上昇してくると、「気・血」の流れも活発になり、新陳代謝が加速します。健康な方にとってこの変化は心地よく感じられるでしょうが、体力のない方やお年寄り、子どもにとっては負担になることがあります。潜伏していた病気が再発したり、慢性病の症状が悪化したりというのも春の大きな特徴です。
⑤春はゆっくり迎える
暖かくなったからといって急に薄着になると、寒の戻りがあった時に血管が収縮して血行が阻害され、体内の機能に悪影響を及ぼして々な病気の原因となってしまいます。着るものを少しずつ減らして、ゆっくり春を迎えるようにしましょう。上半身は薄着でも、下半身を冷やさないようにすることも大切です。また、特に虚弱体質の方は背筋の保温を心がけるようにしましょう。
⑥「春困」解消法
日本にも「春眠暁を覚えず」という言葉がありますが、春は何となく頭がボーッとする季節です。中国では「春困」と呼んでいますが、これは病気ではありません。季節の変化によって生じる正常な生理応です。冬の間は皮膚の毛細血管も収縮していますが、暖かくなるにつれて血管や毛穴が広がって血液の流れも増加します。そのため、脳に送られる血液量が減って頭がボーッとする原因となります。
「春困」は病気ではありませんが、仕事や勉強には影響するので以下のような対策が必要です。
- 6~8時間は睡眠時間を確保する
- 朝起きたら、冷たい水で顔を洗って皮膚や大脳を刺識する
- 頭部をブラシで繰り返し梳く(脳の血液循環をよくする効果がある)
- 適度に日にあたる
春の食事の注意点
①「肝」の働きを調える
「肝」は「気・血」の調節、消化吸収機能の補助、精神や体内活動の調整など重要な働きをしています。春は「肝」の働きを整えることが毎日の健康な生活のための必須条件といえます。特に高血圧や、狭心症の患者は注意が必要です。
また、春は細菌やウイルスの活動も旺盛になり、解毒・排毒の役割を担う肝臓への負担が大きくなります。五行説では「肝」の「気」は春に盛んになると考えています。したがって、春に不適切な生活をしていると肝気を損ないやすくなります。肝気が活発になりすぎることによっても以前の病気の再発が起こります。
②陽気を養う食事を心がける
漢方では、陽気は外部から侵入する「六淫の邪」から身を守る作用があると考えています。養生法に「春は補陽」という原則がありますが、食生活の面でも陽気を補う食べものを多く摂るようにして抵抗力を高め、風邪をはじめとする邪気の侵入を防ぐようにします。
中国・明代の季時珍はその著書『本草綱目』の中で「ネギ、ニラ、ニンニクなどを食べるとよい」と記しています。これらはどれも補腸効果に優れた食べものです。近代の研究によって、ニンニクには違い殺菌用があるほか、新陳代期の促進や食欲増進、動脈硬化や高血圧の予防、思者力を高める効果があることが分かっています。また、ネギには気管や腸の伝染病を防ぐ働きがあります。
③「甘」を多く「酸」を少なく、味はさっぱり
五行説では、五臓の「肝」は「本」、五臓の「脾」と六腑の「胃」は「土」に属します。「木剋土」の原理から、肝気が旺盛になりすぎると「脾」と「胃」の消化吸収活動を損ねてしまいます。五味のうち、「酸」は「肝」、「甘」は「脾」に相応しているので、酸の食品を多く食べると「肝」の働きを活発にし、季節柄盛んになる肝気をさらに旺盛にさせて、ついには「脾・胃」の機能を損ねることになってしまいます。したがって、ナツメ、山芋など甘の食べもので「・胃」の働きを助けるようにするのです。
また、春はさっぱりした味つけを基本とし、肉や高脂肪の食べものは控え目にします。生ものや冷たいものは避け、温かいものを食べるようにしましょう。
④水分、野菜はたっぷりと
十分に水分を補給すれば循環血液量が増加し、代謝老廃物の排泄を容易にして肝臓の解毒作用の負担を軽くします。また、胆汁などの消化液の分泌活動も助けます。春にお茶を多く飲むようにすれば、冬の間に体内にたまった「寒邪」を追い出し、陽気を活発にすることができます。少し暖かくなったからといっても、冷たいの飲みものは避けるようにしましょう。
多くの方は冬の間にビタミンやミネラルが不足がちになっています。春に口内炎や夜盲症、皮膚術などが多く表れるのはこのためです。春は新鮮な野菜を十分に食べて健康維持を図るようにしましょう。
⑤エネルギー、タンパク質も適度に補充する
春がまだ浅い頃は気温も低く、寒さが甲状腺を刺激して亢進を起こしたり、エネルギーの消耗によって寒さに対する抵抗力が衰えたりします。寒さに耐えるためにはエネルギーを消費して体温を保たなければならないので、こうした時期は高エネルギーの栄養バランスを考える必要があります。雑穀類や大豆、ごま、ピーナッツ、クルミなどで十分な栄養補給を心がけましょう。
また、寒さは体内のタンパク質の分解を加速させるので、抵抗力が衰え病気になりやすくなります。早春の頃は鶏卵、エビ、魚、牛肉などで優良なタンパク質を補充することも重要です。これらに含まれるアミノ酸は、寒さに対する抵抗力を強める作用があります。
春におすすめの食材
●旬のもの
タケノコ、タラの芽、フキノトウなど
旬の山菜のもつ苦味には解毒作用があり、春に活発になる細菌やウイルスによる感染症の予防に効果的です。
●陽の「気」を高めるものニラ、ニンニク、ネギ、羊肉、黒糖など
保陽の働きのある食材がおすすめです。抵抗力を高めて風邪の侵入を防ぎます。
●香りの強いもの
三つ葉、セロリ、春菊、香草など
香りの強いものは「気」の巡りをよくして精神を安定させます。香りの高い香辛料も積極的に使ってみましょう。
●甘味のあるもの
キャベツ、にんじん、山芋、ナツメなど
自然な甘味のある食材は、「肝」の高まりで弱まりがちな消化吸収の働きを助けます。
まとめ
春は1年の中でも変化が大きい季節です。気温、環境、気持ちの揺らぎなど、外も内も動きが増えるため、身体はとても影響を受けやすくなります。春に大切とされるのは「肝」を整えることです。肝は気の巡りをコントロールするためストレス、緊張、環境変化で最も負担がかかりやすい場所です。
食事を意識する、朝日を浴びる、ゆっくり深呼吸する、軽いストレッチや散歩をするなど、心身を開放して流れを良くする生活が、春の不調を和らげてくれます。小さな工夫を続けることで、春を気持ちよく過ごすことができます。

